情シス担当が辞めたとき、会社で何が起きるか

壁のフックに掛かった鍵束

辞めた翌日にシステムが止まることは、ほとんどありません。困るのは1ヶ月後から3ヶ月後です。

情シスを一人で回している会社は、思っているより多い。専任ではなく、総務や経理と兼務している、あるいは「パソコンに詳しい人」がなし崩し的に抱えている。

その人が辞めると、何が起きるか。実際に引き継ぐ側として見てきたことを書きます。

目次

まず、何が止まるか

日常は回るのに、何かを変えようとした瞬間に止まる。

パスワードとアカウント

いちばん多いのがこれです。ルーターの管理画面、NASの管理者アカウント、ドメインの管理画面、各種SaaSの管理者権限。

これらは普段使わないので、失くしていることに気づくのが遅れます。回線を切り替えようとしたとき、退職者のアカウントを削除しようとしたとき、ドメインの更新案内が届いたとき。そこで初めて、入れないことが分かります。

さらに悪いパターンが、各種サービスの登録メールアドレスが退職者個人のものになっているケースです。パスワードを再発行しようにも、再発行メールの宛先が残っていない。

ベンダーとの関係

保守契約がどこと結ばれていて、どこまでが範囲で、誰に連絡すればいいのか。

これは書面になっていることもありますが、実際に動いていたのは担当者同士の関係だったりします。「あの件はいつもあの人に直接言っていた」が消えると、同じ依頼でも通らなくなる、あるいは見積が出てくる。

「なぜこうなっているか」の理由

これが一番重い。

なぜこのフォルダ構成なのか。なぜこの端末だけ違う設定なのか。なぜこの例外処理が入っているのか。

たいていは、過去に何かあったからです。その「何か」を知らない人が、良かれと思って標準の形に戻す。そして、同じ事故がもう一度起きる。

引き継ぎ書があっても引き継げない理由

退職が決まると、多くの会社が引き継ぎ書を作らせます。でも、それで引き継げたという話をあまり聞きません。

理由は単純で、書けるのは「手順」だけだからです。手順はマニュアルにできます。できないのは、「どういうときに、どう判断するか」の部分です。

もうひとつ、辞める人は自分が何を知っているかを自覚していません。10年やっていれば、当たり前すぎて書く発想にならないことが山ほどある。引き継ぎ書に書かれないのは、隠しているからではなく、見えていないからです。

一人情シスが辞める前に出しているサイン

退職は突然ではありません。だいたい、先にこういう状態になっています。

  • 休みの日にも問い合わせが入るのが常態になっている
  • 新しいことを提案しなくなった。現状維持の対応だけになっている
  • 「自分がやったほうが早い」と言って、人に渡さなくなった
  • 社内で「パソコンの人」と呼ばれている。仕事の中身が評価されていない

最後のひとつが、実はいちばん大きい。情シスの仕事は、うまくいっているときは何も起きていないように見えます。何も起きていないのは、何も起きないように保っているからです。ここが伝わらないままの人は、辞めます。

外に出せば解決するのか|正直なところ

ここまで読むと、外に出せば安心だと思われるかもしれませんが、そうとも限りません。

外注先の担当者が代われば、同じことが起きます。むしろ、外部の人間のほうが交代のコントロールが効かない場合もある。大手のサービスでは、担当者が年単位で入れ替わるのは普通のことです。

だから、情シス代行を検討するときに聞くべきは、サービス内容や金額だけではありません。

  • 担当者は固定されますか
  • これまで、一つの契約を最長で何年続けていますか
  • 契約が終わったとき、権限とアカウントはどう戻りますか

3つめは特に大事です。外注先名義でアカウントを取られていると、今度はその会社から抜けられなくなります。人に依存していた状態が、会社に依存する状態に変わっただけです。

今、手元でできること

外に出すかどうかに関係なく、この3つは今週でもできます。

  1. 管理者アカウントの一覧を作る。サービス名、登録メールアドレス、支払い方法の3列だけでも十分です
  2. 登録メールアドレスを、個人名から共用アドレスに変える。これだけで、退職時の事故の半分は防げます
  3. ベンダーの連絡先と契約範囲を、人名ではなく会社名と契約番号で控える

どれも地味ですが、実際に引き継ぐ場面で効くのはこのあたりです。

8年、担当が代わっていないということ

90店舗超を展開する小売企業様の情報システムを、2018年3月から担当しています。2026年8月時点で8年5ヶ月。担当は一度も代わっていません。

これは自慢したいのではなく、上に書いた問題が、契約形態ではなく継続でしか解決しないからです。なぜこの設定なのか、なぜこの例外処理が入っているのか。それを知っている人間がそこにい続けることにしか、価値はありません。

弊社が「採用するより、たぶん安くて、辞めません」と書いているのは、この意味です。

よくあるご質問

情シス担当者が退職するとどうなりますか?

翌日にシステムが止まることはほとんどありません。困るのは1ヶ月後から3ヶ月後です。日常は回るのに、何かを変えようとした瞬間に止まります。管理者アカウントのパスワード、ベンダーとの経緯、なぜこの設定になっているかの理由が失われます。

ひとり情シスが辞めるリスクへの対策は?

外に出すかどうかに関係なく、3つだけ先にやってください。管理者アカウントの一覧を作る。登録メールアドレスを個人名から共用アドレスに変える。ベンダーの連絡先と契約範囲を、人名ではなく会社名と契約番号で控える。

引き継ぎ書を作れば大丈夫ですか?

書けるのは手順だけです。手順はマニュアルにできますが、「どういうときに、どう判断するか」は書けません。加えて、辞める人は自分が何を知っているかを自覚していないため、当たり前すぎることは書く発想になりません。

外注すれば属人化は解決しますか?

そうとも限りません。外注先の担当者が代われば同じことが起きます。検討するときは、担当者が固定されるか、一つの契約を最長で何年続けているか、契約終了時に権限とアカウントがどう戻るかを確認してください。

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