在庫が合わない。この相談を受けたとき、私たちが最初に聞くのは「システムは何を使っていますか」ではありません。
「その差異は、多いほうにズレますか。少ないほうにズレますか」です。
在庫差異の原因は、その多くが運用にあります。運用が原因なら、システムを入れても直りません。むしろ「システムを入れたのに差異が減らない」という新しい問題が増えるだけです。
だから順番があります。まず原因を特定する。次に運用を直す。それを支えるシステムを選ぶのは、そのあとです。
この記事では、その最初の「原因を特定する」を4つのステップに分けて書きます。特別なツールは要りません。いま手元にあるデータでできます。
ステップ① 差異の「向き」を分ける
棚卸しの差異一覧を開いて、まず2つに分けてください。
- 実在庫が多い(帳簿より現物が多い)=棚卸差異プラス
- 実在庫が少ない(帳簿より現物が少ない)=棚卸差異マイナス
この2つは、原因がまったく違います。同じ「差異」として合計してしまうと、プラスとマイナスが相殺されて実態が見えなくなります。
差異率が0.5%と報告されていた会社で、内訳を分けたらプラス2.1%・マイナス1.6%だった、ということがあります。合計では小さく見えますが、実際には現場で相当な混乱が起きていました。
大まかな傾向として、こう見ます。
- マイナスが多い→出ていったものが記録されていない(出荷・移動・破棄・サンプル)
- プラスが多い→入ってきたものが記録されていない、または二重に引き落としている
- 両方が同じくらい出る→商品の取り違え。似た商品同士で数が入れ替わっている可能性が高い
3つ目が最も厄介です。合計するとゼロに近くなるので、数字の上では問題がないように見えてしまいます。
ステップ② いつズレたのかを絞り込む
年に1回や半年に1回の棚卸ししかしていない場合、差異が「いつ」発生したのかが分かりません。半年分の何がどこで起きたのかを追うのは、現実的に不可能です。
ここでやるべきは、全SKUの棚卸しを増やすことではありません。差異の大きい上位20〜30品目に絞って、月1回カウントすることです。
これを循環棚卸し(サイクルカウント)と呼びます。全品を数えるより圧倒的に軽く、しかも「先月は合っていたのに今月ズレた」という形で発生時期を特定できます。
期間が1ヶ月まで絞り込めれば、その月に何があったかは思い出せます。セールがあった、新人が入った、倉庫のレイアウトを変えた、繁忙期だった。原因の候補が一気に減ります。
対象品目の選び方は、以下のどれかで十分です。
- 前回の棚卸しで差異が大きかったもの
- 出荷頻度が高いもの(動く回数が多いほどズレる)
- 単価が高いもの(金額インパクトが大きい)
ステップ③ どこでズレたのかを見る
差異が特定のSKUやロケーションに偏っていないかを確認します。ここで偏りが見つかれば、原因はほぼ絞れます。
SKUで偏る場合
特定の商品だけ差異が出続けているなら、その商品に固有の事情があります。
- 色違い・サイズ違いが多く、見た目で区別しにくい
- 入数が他と違う(1箱12個のものと10個のものが混在している)
- バラ売りとセット売りの両方がある
- 賞味期限やロットで管理すべきものを、総数だけで管理している
アパレルなら色・サイズ展開の多いベーシック商品、食品なら詰め合わせ商品でよく起きます。
ロケーションで偏る場合
特定の棚・特定の店舗・特定の倉庫だけ差異が出るなら、その場所の運用に原因があります。
- 同じ商品が複数の場所に置かれていて、片方が数え漏れている
- 取りにくい場所にあるため、記録より先に手が出る
- その拠点だけ、記録のタイミングが違う
同じ商品を2箇所以上に置いているのは、差異の温床です。ロケーション管理をしていない現場で最も多い原因のひとつです。
ステップ④ 誰が・いつ触ったかを見る
最後に、人と時間帯を見ます。
ここで大事なのは、犯人探しをしないことです。個人を責める空気ができた瞬間、現場は差異を報告しなくなります。そうなると原因はもう追えません。
見るべきは、人そのものではなく「その人が置かれていた状況」です。
- 入って3ヶ月以内の人が担当した日に差異が出ているなら、教え方の問題
- 特定の時間帯(閉店前・出荷締切前)に集中しているなら、時間に追われる導線の問題
- 特定の曜日に集中しているなら、その日の業務量の問題
いずれも、個人ではなく仕組みの話に翻訳できます。翻訳できれば、直せます。
実際によくある5つの原因
4つのステップを踏むと、だいたい以下のどれかに行き着きます。現場で実際に多い順です。
1. 出荷時の記録が後回しになっている
「先にモノを出して、記録はあとでまとめて」。忙しい現場ほどこうなります。あとでまとめると、必ず漏れます。
これは怠慢ではなく、記録が現物の動きと同じ場所・同じタイミングでできない導線になっているのが原因です。事務所のPCまで戻らないと記録できない、という状態なら、後回しになるのは当然です。
2. 返品・不良品・サンプルのルールが決まっていない
正常な入出荷は記録されているのに、イレギュラーな動きだけ記録されていない。これが非常に多い。
「返品されたものを、どこに、どの状態で戻すか」が決まっていないと、担当者ごとにバラバラの処理になります。棚に戻す人、別置きする人、記録だけして現物を放置する人。
3. 拠点間移動のタイミングがズレている
倉庫から店舗へ商品を送ったとき、出した側が減らすタイミングと、受けた側が増やすタイミングが違う。輸送中の在庫が、どちらにも計上されない、あるいは両方に計上される。
拠点が増えた会社で必ず起きます。締め日をまたぐと数字が合わなくなります。
4. 入荷検品の粒度が粗い
納品書の数字をそのまま信じて、現物を数えていない。仕入先の出荷ミスが、そのまま自社の在庫差異になります。
全数検品が難しいなら、仕入先ごとに精度の実績を取って、精度の低い先だけ全数検品するという運用が現実的です。
5. 単位と入数の取り違え
「1」と入力したとき、それは1個なのか1箱なのか。ケース単位で仕入れてバラで売る商品では、必ずここでズレます。
これは記録の仕組みの問題なので、ルールを直すだけでは再発します。数少ない「システムで解決すべき」原因のひとつです。
やらないほうがいいこと
いきなり全SKUの棚卸し回数を増やす
差異が出ているからといって全品の棚卸しを月次にすると、現場が疲弊して精度がさらに落ちます。数えることが目的ではなく、原因を見つけることが目的です。上位20〜30品目で十分です。
差異が出た人を特定して指導する
前述のとおりです。報告が上がらなくなると、差異は「なかったこと」になります。数字は改善したように見えて、実態は悪化します。
原因が分からないままシステムを選び始める
原因が分かっていないと、要件が書けません。要件が書けないままベンダーに相談すると、ベンダーが得意な機能が要件になります。それは御社の課題を解く要件ではありません。
ここまでやってから、システムの話をする
4つのステップを踏んで原因が特定できると、次の判断ができるようになります。
- ルールを決めれば直るもの(返品処理、拠点間移動の締めルール)→システムは要りません
- 導線を変えれば直るもの(記録の場所とタイミング)→ハンディ端末など、部分的な投資で足ります
- 仕組みでしか防げないもの(単位の取り違え、ロケーション管理)→ここで初めてWMSの検討に入ります
この切り分けができていれば、ベンダーに対して「うちはこの3点を解決したい」と言えます。要件を自分の言葉で語れる発注者は、見積の妥当性も判断できます。
逆に、この切り分けをせずにWMSを入れると、ルールで直せたはずの問題までシステムに背負わせることになります。カスタマイズが増え、費用が膨らみ、それでも差異は残ります。
まず1ヶ月、やってみてください
4つのステップは、いまあるデータと、月1回・数時間のカウントだけで始められます。
- 前回の棚卸し差異を、プラスとマイナスに分ける
- 差異の大きい上位20〜30品目を選ぶ
- その品目だけ、月1回カウントする
- 2ヶ月目に、どの品目が・どこで・いつズレたかを見る
2ヶ月で、原因の見当がつきます。そこまで分かれば、システムを入れるべきかどうかも自分で判断できます。
株式会社nullkyotoは、京都を拠点に販売管理・WMS・在庫管理の導入と現場定着を支援しています。この記事に書いた原因特定(現場診断)だけのご依頼も承っています。結果として「システムは不要です」とお伝えすることもあります。初回相談は無料です。


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