生成AIの研修を全社でやった。講師を呼んで、ツールの使い方を説明して、質疑応答もした。参加率も悪くなかった。──それから3か月後に見に行くと、実際に使っているのは数人だけ。
よく聞く話です。そして、研修が悪かったわけではありません。順番が違っただけです。
研修が終わった人が、席に戻って最初に考えること
AI研修の多くは「AIで何ができるか」を教えます。文章の要約、たたき台の作成、表の整理。どれも正しい内容です。
ただ、受講した人が自席に戻って最初に考えるのは「で、自分の仕事のどこに使うんだっけ」です。ここが決まっていないと、その日のうちに忘れます。
使われない理由は、だいたい次の3つに集約されます。
理由① 当てる業務が決まっていない
「業務効率化のためにAIを導入する」という決め方は、決めていないのと同じです。
効率化したい業務を1つ選ぶ。さらに、その業務のどの工程を機械に渡すかまで決める。ここまで具体的にして、初めて人は動けます。
私たちが最初にやるのは、業務を工程に分解して「人が決めるべきこと」と「手を動かしているだけのこと」を分ける作業です。企画と最終確認は人。たたき台をつくる、体裁を整える、決まった形式に流し込む——このあたりは機械側。
この線引きが先にないと、研修は「面白かった」で終わります。
理由② 入れていい情報の線引きがない
現場でAIが止まる理由の大半は、能力の問題ではありません。「これを入力していいのか分からない」です。
取引先の名前は入れていいのか。金額は。社員の個人情報は。判断がつかないので、当たり障りのないことしか聞けなくなり、結果として「たいして役に立たない」という結論になります。
必要なのは禁止事項の一覧ではなく、判断基準です。「迷ったらこう考える」という一文があるだけで、現場は動きます。
理由③ 全社から始めている
全社導入から始めると、たいてい一部の人だけが使う状態で止まります。
理由は単純で、「うまくいった例」が社内にないからです。人は、説明を聞いても動きません。となりの席の人が明らかに楽になっているのを見て、はじめて動きます。
順番を逆にします。まず1つの業務で、1人か2人がはっきり楽になる状態をつくる。そのあとで研修をやると、話が通ります。「こういうことか」が伝わるからです。
実際にやった順番
SPINNS・mumokuteki などを90店舗超展開する株式会社ヒューマンフォーラム様では、この順番で進めました。
- SNS運用の工程を分解し、人が決める部分と機械に渡す部分を切り分けた
- 新しいシステムは作らず、すでにある管理ツールと生成AIをつないだ
- 入力してよい情報の線引きを、禁止事項ではなく判断基準として渡した
- そのうえで、AI業務活用研修を全3回
3番目まで終わってから、研修をやっています。逆ではありません。研修の場で「こういうことか」と伝わったのは、先に形になっている例があったからです。
詳しい内容は SNS運用の自動化とAI業務活用研修の事例 に書いています。
自前でシステムを作らない理由
もう一つ、意図的にやっていないことがあります。自前開発です。
AIを組み込んだ仕組みは、作れば動きます。ただし、作った人がいなくなったときに止まります。中小企業でいちばん多い失敗はこれです。
既存のツールの組み合わせで済むなら、そちらを選びます。遠回りに見えて、結局そのほうが続きます。
最初の1件に、どの業務を選ぶか
AIを当てる業務を1つだけ選ぶときの基準です。
| 向いている | 向いていない | |
|---|---|---|
| 毎回の手順 | ほぼ同じ | 毎回変わる |
| 結果の確認 | 見ればすぐ正誤が分かる | 正しいか確かめるのに時間がかかる |
| 失敗したとき | やり直せる | 取り返しがつかない |
| 発生する頻度 | 週に何度もある | 年に数回 |
| いまの状態 | 特定の人に偏っている | 全員が少しずつやっている |
左の列に多く当てはまる業務から始めてください。逆に、右の列に当てはまる業務を最初の対象にすると、だいたい失敗します。判断が毎回変わる仕事や、間違いに気づきにくい仕事は、AIの一件目には向きません。
情シスを8年やって分かったこと
私たちは情シス代行を8年以上続けています。システムを入れる場面よりも、入れた後の場面のほうをずっと長く見てきました。
その経験から言えることは1つです。道具が原因で止まっている現場は、ほとんどありません。止まるのは、決めていないからです。誰が使うのか。何に使うのか。何を入れていいのか。
AIも同じでした。新しい技術に見えますが、定着しない理由は昔のシステムとまったく変わっていません。
まとめ
- 研修の前に、当てる業務を1つ決める
- 入力してよい情報の線引きを、判断基準の形で渡す
- 全社ではなく、1件から始める
- 自前で作らない。既存ツールの組み合わせで足りることは多い
AI導入がうまくいかない会社は、AIが分かっていないのではありません。自社の業務のどこが機械に渡せるかが整理されていないだけです。そしてそこは、中にいる人ほど見えにくい場所でもあります。
株式会社nullkyotoは、京都を拠点にAI導入と業務改善を支援しています。研修だけ、ツール選定だけ、という関わり方はしていません。どの業務に当てるかを一緒に決めて、現場で使われる状態になるまで見ます。自社ブランドの運用でも同じやり方を試してから、お客様にお渡ししています。初回のご相談は無料です。


IT CONSULTING
コメント