AIに経営判断を任せられるか|500日の実験でAIがルールに負けた話

工場の機械の操作盤

AIに会社の経営を500日間まかせたら、どうなるか。プリンストン大学の研究チームが、実際にそれを試しています。

結果はこうです。20あるAIモデルのうち18が、「if-then」を並べただけの単純なプログラムに負けました。3回の試行すべてで資金を使い切り、倒産したモデルも4つあります。

この研究のことは、安野貴博さんの解説動画で知りました。面白かったので元の論文まで読みに行ったところ、中小企業のAI導入にそのまま効く話だったので、まとめておきます。

もうひとつ、書いておきたいことがあります。この実験と同じことが、実際の現場でも起きています。AIに経営判断を預けるようになってから、売上を落とした会社を見ました。その話は記事の後半に書きました。

目次

何を実験したのか

ベンチマークの名前は CEO-Bench。2026年6月にプリンストン大学の Haozhe Chen、Karthik Narasimhan、Zhuang Liu の3氏が発表しました。

内容はこうです。架空のサブスク型ソフトウェア企業を用意し、AIをCEOの席に座らせて500日間経営させる。手元資金は100万ドル。残高がゼロを切った時点で倒産、そこで終わりです。

AIに与えられるのは、34種類のツールと19テーブルぶんの社内データベース。顧客は26セグメントに分かれていて、それぞれ価格の感じ方も好みの機能も違います。価格を決め、開発に投資し、採用を判断し、競合の動きに対応する——ひととおり社長の仕事をやらせるわけです。

評価は単純で、500日後にいくら現金が残っているか。それだけです。

20モデルのうち、ルールに勝てたのは1つだけ

公式サイトのリーダーボードには、いま20のモデルが並んでいます。各モデルを3回ずつ走らせ、いちばん良かった回の残高で順位がつきます。

上位はこうです。

モデル/手法500日後の残高(3回中ベスト)
1. Kimi K32,214万ドル
2. if-thenルールだけのプログラム(AI不使用)1,575万ドル
3. Claude Fable 51,263万ドル
4. GPT-5.6 Sol1,131万ドル
5. Claude Opus 4.8240万ドル
6位以下(15モデル)36万ドル以下。うち4モデルは3回とも倒産
(参考)研究チームが試算した理論上の上限約22億ドル

AIを1行も使っていないプログラムが、2位にいます。これを上回ったのは Kimi K3 だけ。残り18モデルは、条件分岐を並べただけの仕組みに負けました。

下も見ておきます。GLM 5.1、DeepSeek V4 Pro、Gemini 3 Flash、Grok 4.20 の4モデルは、3回とも資金を使い切って倒産しました。いちばん短かった Grok 4.20 は、平均36日で終わっています。500日のうち、36日です。

倒産しなかったモデルは、稼げていない

逆に、3回とも500日を走りきったモデルも3つあります。Qwen 3.7 Max、Gemini 3.5 Flash、Kimi K2.6 の3つです。ただし残高は、それぞれ36万ドル、7.5万ドル、4.4万ドル。100万ドルを預けて、減らして終わっています。

生き残ったモデルは、守りに入っていた。攻めたモデルは、倒産した。その両方を避けられたのが、ルールを並べただけのプログラムでした。

ちなみに研究チームの試算では、この環境で理論上取れる最大値は約22億ドルです。最上位の Kimi K3 でも、その1%に届いていません。AIにとって、この課題はまだ手つかずに近いということです。

※ この数字は2026年9月14日時点の公式リーダーボードの実測値です。論文の発表は2026年6月で、そこから3か月でモデルは入れ替わっています。読む時期によって順位は変わります。

倒産したAIに共通していた3つのこと

研究チームは、失敗したモデルに共通する弱点を3つ挙げています。

① 表に出ていない情報を読めない

顧客が何を求めているかは、データベースの列に書いてありません。過去のやり取りから推し量る必要があります。失敗したモデルは、ここができませんでした。

② 数手先が読めない

いまの判断が半年後のキャッシュフローにどう効くか。そこを見ずに、目の前の数字だけで動いていました。

③ 変化に合わせて方針を変え続けられない

市場が動いたことには気づく。でも、気づいたあとに戦略を組み直して、それを維持することができない。

論文の表現を借りれば、1回ごとの判断は合理的なのに、500日積み重ねると破綻するということです。

勝ったモデルは何をしていたか

逆に、成績の良かったモデルには共通の行動がありました。

  • 顧客を絞り、その顧客のための開発に手を集中させていた(安野さんの解説では、上位モデルは開発の87〜89%が特定顧客向けだった)
  • 過去のやり取りから、データベースに書かれていない顧客の好みを推測していた
  • 4週間後の現金を予測し、実績とのズレを見ながら修正し続けていた
  • 「競合が値下げしたら開発費を増やす」のように、場合分けを先に決めていた。メモに「if」が多く出てくるモデルほど、成績が良かった
  • 最後まで、やり方を変え続けていた。公式サイトの分析でも、上位のモデルは終盤まで戦略を調整し続け、下位のモデルは早い段階で「使わない・待つ・現金を守る」に狭まっていた

同じAIでも、動かし方で成績が変わった

論文にはもう1つ、実務にそのまま効く指摘があります。同じモデルでも、それを動かす仕組みが違うと成績が変わったということです。

研究チームが用意した環境で走らせたときより、Claude Code や Codex のような開発者向けの環境で走らせたときのほうが、成績が落ちたと報告されています。理由として挙げられているのは、それらの環境にはソフトウェア開発向けの指示があらかじめ組み込まれていて、経営の判断には向いていないから、というものです。

これは中小企業の現場でも、そのまま起きています。同じAIを使っていても、何を前提として渡し、どういう順番で聞くかで、返ってくる答えの質は変わる。「うちではAIが使えなかった」と言われる現場を見に行くと、モデルの性能ではなく渡し方が原因だったことのほうが多いです。

そして渡し方を決めるには、結局その会社の判断基準が要ります。話は元に戻ります。

背表紙のラベルが空白のまま並んだファイル

この実験から、中小企業が読み取れること

「AIはまだ経営できない」で終わらせると、何も残りません。そこではなく、ルールだけのプログラムがなぜ強かったのかを見たほうがいい。

理由は単純です。そのプログラムには、判断基準が最初から書いてあったからです。離脱率が上がったら値下げする。競合が動いたら開発に回す。迷いません。ブレません。500日間、同じ基準で動き続けます。

私たちが情シス代行で現場に入ると、この逆の状態によく出会います。判断基準が誰の頭の中にもなく、そのときの空気で決まっている。そこにAIを入れても、AIが迷うだけです。

前に AI研修をやったのに使われない という記事で、「道具が原因で止まっている現場はほとんどない。止まるのは、決めていないから」と書きました。今回の実験は、それを別の角度から裏づけています。

「ルールを書き出す」とは、具体的に何をするか

抽象的な話にしないために、実際に書き出す対象を挙げます。

領域決めておくこと決まっていない状態
価格いくらまでなら値引きしてよいかその場で上長に確認する
在庫何個を切ったら発注するか担当者の感覚で決めている
与信いくらから稟議に上げるか金額の基準がない
対応どこまでを一次対応で返すか毎回エスカレーションする
例外どの条件なら人が判断するか全部人が見ている

右の列に心当たりがあるなら、そこが先です。AIの導入はそのあとで構いません。というより、そのあとの方が確実に成果が出ます。

補足すると、全部を決める必要はありません。頻度が高くて、毎回同じ判断をしている場所から書き出せば十分です。年に数回しかない判断は、人が考えればいい。

草地と砂利敷きの境目に置かれた排水溝の格子

AIに答えを求めるようになると、何が起きるか

ここまでは実験の話です。最後に、現場で実際に見てきたことを書きます。特定の会社の話にはしません。同じことが、いくつかの現場で起きているからです。

現場の話をよく聞き、自分の目で見た感覚で判断してきた経営者がいます。判断に現場の感覚が入っている分、現場とぶつかることもある。食い違いも起きる。それでも、熱量と人を引っ張る力で会社が回っている。中小企業では、珍しくない形です。

そこにAIが入ると、変化が起きることがあります。現場に聞く前に、AIに聞く。返ってきた方針で決める。これは怠慢ではありません。AIのほうが早く、筋の通った答えを返してくるからです。忙しい人ほど、そちらを選ぶ理由があります。

ただ、そうやって決めた判断からは、現場だけが知っている、大事だけれど例外的なケースが抜けます。数字にも資料にも出てこない話なので、AIに渡す情報の中に、最初から入っていないからです。

そして立て直しの相談も、AIにすることになります。ここで、もう一段やっかいなことが起きます。AIは、厳しい評価をしません。「こうすれば改善できます」という前向きな答えは返ってくるけれど、「その前提のほうが間違っている」とは、こちらから聞かない限り言ってくれない。

売上を落とし、事業を縮小することになった例を、私は見ています。判断した人の能力の問題ではありません。現場の声とAIの答えを、同じ土俵に並べなかった。それだけです。

人間は編集者であって、編集される側ではない

ここから学んだことは、ひとつです。

AIは優秀ですが、最後に編集するのは人間でなければならない。AIに編集される側に回った時点で、現場の大事なケースは判断から消えます。しかも、消えたことに気づけません。抜けた情報は、そもそもAIに渡っていないからです。

ぶつかることを避けるために、AIを使わない

もうひとつ、触れておきたいことがあります。

現場と意見をぶつけ合うのは、しんどい作業です。相手がいて、感情があって、後味も悪い。だからAIに聞くほうが楽です。反論されないし、責められない。

でも、そのしんどい作業の中にしかないものがあります。スタッフが何に納得していないのか、どこで手が止まっているのか、何なら頑張れるのか。ここは机上では出てきません。そして、これが抜けた経営は続きません。

ぶつかることを避けるためにAIを使うなら、使わないほうがマシです。

まとめ

  • プリンストン大学が、AIに500日間の会社経営をさせた。20モデルのうち18が、if-thenルールを並べただけのプログラムに負けた
  • 3回とも倒産したモデルが4つ。逆に完走したモデルは、資金を減らして終わっている
  • 失敗したAIは、隠れた情報を読めず、数手先を読めず、方針を組み直せなかった
  • 同じモデルでも、動かす仕組みが違うと成績が変わった
  • 強かったのはルールそのものではなく、「判断基準が書いてあること」
  • 最後に編集するのは人間であること。AIに編集される側に回ると、現場の例外が判断から消える

AIの性能はこれからも上がります。この記事の順位表も、半年後には古くなっているはずです。実際、論文が出てからの3か月で、ルールベースを上回るモデルが1つ現れました。

それでも変わらないことが1つあります。自社の判断基準が言葉になっていない会社は、どれだけ賢いAIを入れても、任せる先がありません。そこは、AIの進化を待っても解決しません。


株式会社nullkyotoは、京都を拠点にAI導入と業務改善を支援しています。どの業務に当てるか、何を基準に判断するか——そこを一緒に決めるところから入ります。ツールの選定だけ、研修だけ、という関わり方はしていません。初回のご相談は無料です。

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参考
・Haozhe Chen, Karthik Narasimhan, Zhuang Liu(プリンストン大学)「CEO-Bench: Can Agents Play the Long Game?」arXiv:2606.18543(2026年6月)
CEO-Bench 公式サイト・リーダーボード(数値は2026年9月14日閲覧時点)
安野貴博の自由研究「【社長AI】AIに会社を500日間経営させるベンチマーク「CEO-Bench」って何?黒字にできたモデルの特徴をゆる解説」

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